タイ進出における今と今後の日本企業の戦い方とは。インテージタイ、ローランド・ベルガー2人の専門家インタビュー

■インタビュイー
青葉 大助:INTAGE(Thailand)Client service & Insight Senior Manager
1997年から一貫して市場調査に従事する消費者インサイトのスペシャリスト。
15年間の日本市場に対する調査を経て、2012年より海外調査の専門家として、世界各国の消費者を対象に1年の半分を海外で過ごす。専門領域は、耐久消費財全般、FMCG 、OTCなど多岐にわたる。2018年よりバンコク駐在員として赴任。過去にもタイに居住しておりタイは第二の故郷。

下村 健一:Roland Berger
一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現在は欧州最大の戦略系コンサルティングファームであるローランド・ベルガーのアジアジャパンデスク統括(バンコク在住)。ASEAN全域で、消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心に、グローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、企業再生等、幅広いテーマでの支援に従事している。

―まずはお二人の自己紹介と、得意としている地域を教えてください。

青葉さん:インテージタイランドに勤務しています。リサーチ業界で22年ほど、市場調査を専門としている会社です。消費者のニーズ等をお客様のために調査する仕事をしています。
得意としている国はタイですね。

下村さん:ローランド・ベルガーに勤務しています。戦略コンサルティングファームです。私自身は東南アジアジャパンデスクという立場で、東南アジアに進出する日系企業のサポートを担当しています。なので得意な地域と言うと東南アジア全域になります。

―どのような領域を担当されているのですか?

消費財、小売・流通、自動車に関してご相談いただくケースが多いです。

タイのデジタルリテラシーは日本以上。デジタルがどんどん進む

―タイでのビジネストレンドは何ですか?

青葉さん:デリバリーアプリは皆使っていますね。コロナで外出者が減ったことや在宅勤務者が増えたことで、Grabだったりフードパンダなどの利用者が増えているように思います。
お店から食事を届けてもらうだけでなく、スーパーの買い物代行、その延長でECサイトでのショッピング、特に”巣ごもり商品”の売れ行きが伸びていると思います。

―それはコロナ禍で急激に増えたのですか?

青葉さん:ますます増えているという感じですね。今ではセブンイレブンも家に届けてくれます。そういったアプリがトレンドの一つとして挙げられると思います。

下村さん:私も一番は青葉さんが仰ったところだと思います。更にタイではオンラインデリバリーサービスについて、消費者目線だけではなく生産者の流通に関わるところでも変化が起きています。
タイには、メーカー→卸業者→小売業者→消費者という昔ながらの流通経路がしっかりと存在しています。

一方で消費者のデジタルリテラシーは日本よりも高く、コロナ流行前から消費者はオンライン上で商品を調べたり購入したりということをしていて、タイにはコロナ前から消費者側の要求としてオンラインデリバリーシステムが既にありました。
それがコロナ禍で一気に拡大し、バリューチェーンを川上に遡って生産者側や販売過程においてもデジタル化がどんどん進んでいる状況です。

ビジネスをする上でのスピード感が速く、現場対応力が高い

―お二人ともタイ在住ということですが、ビジネスマンとしてのタイの魅力は何ですか?

青葉さん:スピード感ですかね。先程下村さんが仰っていた生産者側のデジタル化というのも、本当に短期間に起こっていると思います。
コロナ禍においてタイは生活面、ビジネス面の両方で本当に素早く、一瞬にして変わることができましたし、対応できる人達が多いと感じました。たくましいというか現場対応力が高いというか、そういうダイナミックな市場、国にいることはとてもワクワクするし楽しいことです。

―日本とはスピード感が全然違うのですね。

青葉さん:そうですね。私は長らく日本へ帰国しておりませんが、最近帰国した駐在員の方からも、日本に比べてタイのビジネススピードは速いという話をしばしば聞きます。

下村さん:日系企業がタイへ進出する上で一番の魅力は、どのビジネスにおいても日系企業のネットワークやサプライチェーンが充実していることだと思います。
例えば飲食店がタイへ進出しようとしたとき、日系食材の卸業者に日本人窓口があったり、調理器具や什器などを日本人仕様ににカスタマイズできる業者がいたり、日本人がビジネスをしやすいような環境を整えるプレーヤー、ネットワークが非常に強いです。なので日系企業の売り先という意味も含めて、非常に進出しやすいのではないかと思います。

既存業界のDX化を支援するスタートアップが多く進出

―コロナ禍に入り日系企業のタイ進出も減退しているのではないかと思いますが、最近ではどのような分野の企業が進出していますか?

青葉さん:例えばスシローさんでしょうか。”まだタイに紹介されていない日本のもの”は、現時点で大量に日系飲食店があるにも関わらず今も尚、タイで非常に高い関心を集めます。オープン直後のスシローの店舗には1~2時間待ちの行列ができる程でした。
また、タイでは日系大企業の進出はある程度進んでいる状態ですが、次の段階として中小企業の進出も進んでいると思います。肌感覚ではありますが、特に越境ECに参画する中小企業が多いと感じます。

下村さん:タイは日系企業進出の歴史は長いので、伝統的な大企業は既出しており、新たに中小企業が進出するケースは増えています。
それから日本のデジタル系スタートアップが、国内でビジネス展開するだけでなく、早い段階から成果を出す目的で進出先にタイを選ぶケースも結構増えています。

―いきなりタイで勝負するのですね。

下村さん:そうですね。理由は主に二つあります。一つ目は日系ネットワークが充実していて進出しやすいということ、二つ目は日本よりタイの方がデジタル化の意識が高く、手ごたえを得やすいことです。あとはタイの平均賃金がまだまだ日本よりは低いので、固定費などのコストを抑えてビジネスをスタートできるという理由でチャレンジする企業もあります。

―どのような領域のデジタルスタートアップが多いですか?

下村さん:本当に多岐にわたります。例えば、飲食系デジタルトランスフォーメーションでは伝統的なものにPOSシステムがありますが、更にそれらとバックヤードを繋いで在庫管理や自動発注システムを構築したりといったものです。そういった、企業のデジタル化を支えるスタートアップが一例として挙げられます。

必ずしもフェアな戦いができるとは限らない新興国市場

―タイでビジネスをする上で一番感じる日本との差異は何ですか?

青葉さん:駐在員同士の横の繋がりが強いことです。ビジネスを展開する上でインフラが整っているのは勿論のこと、人と人との関係においても日本では滅多に起きないような太くしっかりとしたコネクションが自然に生まれます。お客様と自分というドライな関係を越えて、もっと人として助け合う関係です。それは日系で固まるということではなく、「タイ人により良いサービス・商品を提供したい」「日本企業として成功させたい」という想いから成り立っています。

タイに進出する上で、日本からの支援も勿論ありますが現地でのギャップに直面することもあります。そういう時にお互いに助け合えるネットワークがあって、時にはビジネスが生まれることもあります。
タイのこのような人的ネットワークは私の経験上、日本とは明らかに違います。旅行ベースではまず感じることができないですし、構築することもできないですね。

―駐在員というマイノリティの立場なので関係がより強固になるということですか?

青葉さん:全体を含めるとタイには7~8万人の日本人滞在者がいて、日本と同じサービスを得られる環境もあるのでそこまでマイノリティではないかもしれないです。
タイに限ったことではないかもしれないですが、わざわざ日本ではなくタイでビジネスをしようという人にはそれなりに熱い想いを持った人が多いので「一緒にビジネスを成功させよう」という共通意識を持つことができて働きやすいですし、ビジネスも生まれやすい。
また、紹介し合えるという強い協力関係があることを実感しています。

下村さん:よくご相談いただくケースとしてタイは政府や財閥の力が日本以上に強いので、それらとどううまく付き合っていくかがとても重要です。特に、新しいことや大きなことをしようとすると単独の企業で進められることはほぼ無く、政府を巻き込み、ローカルの協力を得る必要があります。
そのあたりは日本人がグローバルのなかで非常に苦手とするところだと思います。

タイでは華僑系(中国系)の方が非常に多く、中国企業の進出も今すごく増えています。先程デジタル化が進んでいるという話がありましたが、実はリードしているのは中国系のプレーヤーだったりします。10年前、20年前であれば日本人企業がリードしていたタイの大きなプロジェクトも、今では中国が根こそぎ持って行っていたりしています単純に中国企業の方が支払う金額が大きいこともあるかもしれないですが、中国企業は政府に対する活動も含め、華僑ネットワークを使ってかなり巧みにロビーイングを行っています。

ですから日本企業が良い技術やプランをを持っていたとしても、うまく立ち回れないといったことに現実問題として直面していて、我々がそういうケースをサポートしたりすることもあります。
タイに限らず新興国市場では常ではありますが、誤解を恐れずに言うと日本のように必ずしもフェアに戦える訳ではないということです。

―単体で日本企業が進出しようとすると非常に難しいのですね。

下村さん:そうですね。特に新しいこと、大きいことについてのビジネス領域は中国企業も同じように狙っているので、どう対抗するかというテーマは最近非常に多いです。

メイド・イン・ジャパンだけではもう売れない

―日本企業がタイに進出する上で気を付けなければいけないことは何ですか?

青葉さん:”メイド・イン・ジャパン”が通用しなくなってきている、と思った方が良いと思います。メイド・イン・ジャパンだったら皆買ってくれるんじゃないか、あるいは魅力が上がるんじゃないかと思われがちですが、コスメティクス等は韓国製品の方が断然人気があります。日本製で性能が良いから財布の紐が緩むということは、はっきり言ってないと思っていた方が丁度良いと思います。
勿論、日本産の美味しいフルーツなど、”日本でしか採れない輸入品”としての魅力はあります。でもその他の物でメイド・イン・ジャパンを振りかざして何かを売ろうとするのは、消費者目線で言うと大きな誤解の一つかなと思います。

下村さん:財閥も含めて現地企業とどう付き合うかも重要です。タイの財閥とJV(ジョイントベンチャー)を作ろうとした時に、日本の名だたる大企業でも条件等の交渉で押し負けてしまうケースが多々あります。
本来であればもっと日系ブランドを生かした展開ができ、それに伴って利益をより日系企業側に寄せられるであろうケースも、なかなかうまくいかないことがあります。

また、JVにおいて日系企業の本社の意思決定が遅いが故に現地企業をヤキモキさせてしまって話が進まないということもあります。日系企業と現地企業の付き合い方、交渉、意思決定等のプロトコルがうまく合わないケースが結構多いです。

日本企業は高齢化問題とデジタル化に勝機あり?


―現地で受け入れられやすい傾向にあるビジネスにはどのようなものがありますか?

青葉さん:日本の農産品はわかりやすく美味しいという理由で受け入れられやすいです。東日本大震災直後は放射能の影響でタイだけでなく色々な国で日本の食品が心配されました。しかし、今タイにおいてそのような声は一切聞きません。

それからタイの農業は、働き手、賃金、コスト、技術等の様々な問題によって近代化があまり進んでいません。例えばですがタイの農業技術改革など、農業周りの生産者を支援して効率を上げる、且つ、CO2を削減してリサイクルを推進するようなビジネスは今後ますます勢いを増していき、政府も含めてウェルカムな状態にあるのではないかと私は推測しています。

下村さん:タイの経済が直面している課題を解決するという観点で言うと、二つあります。
まず一つ目に、タイは東南アジアの中でも高齢化が非常に進んでいる国なので、それに関連する商品、サービスが求められる傾向は非常に強くなってきています。

日本は世界で最も高齢化が進んでいる国なので先進事例が既にあるという認識は強く、我々もタイの財閥から日本の高齢化をテーマにしたビジネス、商品、サービスの中でタイに取り入れられるものはないかというご相談を受けます。
例えば健康食品ですとか、日本の強みであるホスピタリティの高さを生かした介護サービスを導入しようとする動きがあります。

二つ目に、タイが長らく直面している課題としていわゆる「中進国の罠」があります。タイは、新興国ど真ん中ではないけれども先進国入りはなかなか出来ていないという状況で、それを打破しようとタイ政府や財閥は躍起になっています。

この課題の原因の一つには、日本企業の責任もあると私は思っています。元々、自動車業を中心として日本企業が生産拠点をタイに移し、伝統的なやり方で高い生産性を持つプロセスを作り込んできました。

ただ現在のトレンドを見たときに、人力の工夫で生産性を高めていく方法のままだとタイは先進国入りは出来ません。やはりIoT(Internet of Things)やデジタル化という方法を使い、思い切ってロボティクスやオートメーションを生産現場に導入していかないとタイの生産性はこれ以上あがりません

このような課題に関わるサービスやソリューション、デジタルトランスフォーメーションは、タイ政府を巻き込む上でも非常にポジティブに受け入れられるのではないかと思います。

海産物のブランド化にチャレンジしてみたい

―ここまではタイ進出に関する話題でしたが、もしご自身が日本以外でビジネスを展開するとすればどの国で何をやりますか?

青葉さん:タイなら、個人的に養殖エビなどの漁業をやってみたいです。日本だと産地ごとにブランドがありますが、タイでも同じようにブランド構築ができればと思います。タイでは海産物を冷凍や低温状態にして理想的な状態で輸送することが難しい現状です。輸送システムも含めて産地から消費者まで美味しいまま届けられるようになればいいなと思います。
それには、輸送技術の低さから途中で傷んでしまって捨てなければいけない海産物の廃棄ロスを削減したいという目的もありますし、タイにおいてはその部分が空白地帯だなと思うので色々な意味でやらなければいけないことではないかなと思います。

―空白地帯ということは逆にビジネスチャンスになるかもしれないですよね?

青葉さん:おそらくですがそのようなシステムを構築するよりも、多少捨ててでも大量に獲って大量に売った方がコスト効率が良いのでしょう。要するに需要と供給のバランスで、そこまで手をかけると売れなくなってしまうということだと思います。その領域においてタイは手つかずという訳ではないですが、事例をあまり聞いたことがないので面白そうだなと思います。

―ブランドにこだわるという感覚がタイの消費者にはないということですか?

青葉さん:黒毛和牛やA5ランクのような肉のランクはあるものの、海産物のブランドはおそらくないと思います。

カンボジアをハブにした東南アジアでの展開

下村さん:いま東南アジアにおいてあらゆる分野で一番ホットなのはベトナムです。タイも引き続き選択肢はあるのですが、相対的に見ると既に整っている部分が多く、ビジネスの空白地帯は東南アジアの中では縮小傾向にあります。
タイでは既存の物をどう鍛えていくかという段階であるのに対し、ベトナムはまだその段階にはなく、経済成長率もタイに比べて高いですし、難しく考えなくてもお金と時間があればやれることが沢山あるという状態だと思います。
またその先の話でいうと、昨今ベトナムの次の場所でにわかに浮上しているのがカンボジアです。

これは昔から言われる”タイプラスワン”という考え方で、タイ以外に拠点をつくる候補地としてミャンマーが挙がっていました。そのミャンマーがクーデターの影響で先行きが見えなくなった為に、次の候補としてカンボジアが浮上してきたという訳です。カンボジア単体でビジネスを成立させるというよりも、タイ、ベトナム、カンボジアの三ヵ国の経済圏の中でカンボジアをどう生かすかというのは面白いトピックとしてあると思います。

青葉さん、下村さん、本日はタイ市場の今について現場のリアルなお話、ありがとうございました。日本企業がタイにいく魅力とともにその難しさについても、学びが深い時間でした。


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